浦原 | ナノ
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▼ 過去編7

趣味が悪い。30回くらいそう言われたけれど、浦原隊長のことが好きだと伝えると、ひよ里は非常に不満そうに、協力してくれると言ってくれた。協力も何も、浦原隊長のお傍にいれるだけでわたしは十分なんだけど。基本的に話を聞かないひよ里は、話をした翌日、早速行動にうつし始めたらしい。

「なんでうちが喜助の面倒見たらなアカンねん!!」

「いや、ひよ里サンボクの副隊長でしょ…」

「絶対嫌や!うちの代わりになまえでも連れてき!!」

わたしの前で繰り広げられる2人のそんなやり取り。浦原隊長が行かなきゃならない検体採取を兼ねた流魂街での演習への同行者について話しているのだが、普段副官として浦原隊長についていくひよ里が、今、同行を断固拒否しているのだ。代わりにわたしを連れていけと言っているあたりこれはわたしへの協力の一環なのだろうが、単純に面倒くさいから行きたくない可能性も否定できない。

「うーん…ひよ里サンがどうしてもダメなら席次を考えると涅サンにお願いするしかないっスねェ…」

「なまえを!連れてけ言うとるやろ!」

浦原隊長の顔面に飛び蹴りを喰らわせたひよ里が華麗な着地を決める。顔が痛い!と悲鳴を上げて赤くなってしまった鼻を押さえる浦原隊長に、心の中で謝罪をするしかなかった。ひよ里さん、気持ちはうれしいけどあからさま過ぎてわたしも反応に困るよ。でも今回の演習には他隊の平隊士も参加するらしいので涅三席はやめた方がいいと思う。顔をおさえたままうずくまる浦原隊長にヤイヤイと畳みかけるひよ里をなんとか宥め、浦原隊長に大丈夫ですか、と声をかける。

「なまえサ〜ン!ひよ里さんが酷いんスよ〜!」

情けない顔でわたしに縋りつこうとする浦原隊長を、ひよ里がすかさず、セクハラすな!と蹴りとばす。ホンマにコイツでええんか、とひよ里の顔にデカデカと書いてあるようで、わたしも苦笑するしかない。

「まぁ実際、涅サンを連れていくのはちょっとまずいかもしれないっスけどねェ」

「あないな妖怪連れてってこれ以上十二番隊の評判落ちたらどう責任とんねん」

「だったらひよ里サンが来てくださいよ」

「嫌や言うとるやろ!しっつこいわ!!」

うーん、堂々巡り。こんな話をしている間にも刻一刻と就業時間は過ぎていくので、できればふたりには早く仕事に戻ってほしいところなのだが。

「なまえだとまずいことでもあるんか」

ひよ里のその言葉に、浦原隊長が一瞬動きを止める。その反応に思わず、えっ、と声を漏らしてしまった。わたしは何か浦原隊長の気に障ることでもしてしまったのだろうか。今回の演習は平隊士の育成のためのものだし、虚に確実に遭遇するわけでもない。わたしが同行したところでさして問題はないはずなのだが。やはり戦闘能力が低いのが問題なのだろうか。じゃあ、四席に声をかけてきます。浦原隊長とひよ里にそう伝えてその場を離れようとすると、慌てたような浦原隊長が、ちょっと待ってください!とわたしの手を掴んだ。

「あの……」

「なまえサンが嫌とか、そういうんじゃないです」

嫌われてはいなかったようだ。でも、それよりも掴まれた手が、気になってしまう。どうしよう、脈とかはかられたら一発でばれてしまいそうなほどに鼓動が速くなっているのを感じる。あたふたする私を見て、ひよ里が浦原隊長の手を振り払う。振り払われた手で頬をかきながら、浦原隊長はちょっと言いにくそうにわたしを見る。

「……なまえサンは、この間怖い思いしたばかりじゃないっスか」

この間、とは涅三席にしてやられた先日の流魂街での一件だとは思う。確かに割とトラウマになるんじゃないかというレベルの出来ことではあったけれど、死神になった時からある程度の覚悟はしていたし、それに。

「浦原隊長と一緒なら、平気です」

あの時わたしを助けてくれたのは、他でもない浦原隊長なのだ。だから、浦原隊長がいれば、大丈夫。きっとわたしにとって、浦原隊長の傍ほど安心できる場所はないのだろう。最近は、ちょっとそわそわしてしまって落ち着かないことも多いけれど。浦原隊長は優しく目を細めて、じゃあボクと一緒に行ってくれますか、とわたしに手を差しだした。えっ。これはもしかして、この手をわたしに、握れというのだろうか。そんなことできるわけもなく、思考が止まってしまう。それでも浦原隊長が眉尻を下げてやっぱり嫌っスか?と聞いてくるので、ええい、女は度胸だ、と差しだされた手に勢いよく自分の手を重ねると、ばちん、と思いのほか大きな音が鳴ってしまって、逆に恥ずかしい思いをすることになった。

 * * *

「ね〜え〜拳西〜!ヒマ〜〜〜!拳西ってばぁ〜〜〜!」

今回の演習は、袖がないことでお馴染みの六車隊長率いる九番隊と一緒だったらしい。引率の六車隊長と、それにひっついてきた白、そして入隊したばかりの隊士たち。いつもは白にキレる六車隊長を宥める席官たちもいない状況で、目に見えてイライラメーターが溜まっていく六車隊長に、新入隊士たちが怯えている。わたしと浦原隊長は六車隊長と白の少し後ろを並んで歩いているのだが、さすがに隊士たちが可哀想になって浦原隊長に目配せすると、苦笑してひとつ頷かれる。それを確認してから、少し歩くペースを上げて白の隣に並んだ。

「白、暇ならわたしとお話しよう?」

「なまえちん!聞いてよ拳西ってばね、」

「おい白、いい加減にしないとブッ飛ばすぞ」

「六車隊長も…みんな怯えてますよ」

「ほらぁ!拳西の怒りんぼ!」

ぷるぷる震える六車隊長からさりげなく白を引き離し、最近出た新作のお団子についての話をする。今度はごまだんごだって、と伝えると、顔をきらきら輝かせた白が楽しみ!と満面の笑みを浮かべた。その後も白を飽きさせないように色々な話をしたり、しりとりをしたりした。緊張感はなくなってしまうけれど、無駄にぴりぴりしているよりよっぽどいいだろう。しばらくそうしていると、目的地に着いたようで、前を歩く六車隊長から号令がかかる。これから九番隊は平隊士の演習、わたしと浦原隊長は検体採取をすることになる。白がいってくるね〜と手を振って六車隊長に並び、わたしも浦原隊長に並んだ。

「なまえサンって人付き合いがお上手ですよねェ」

ひよ里サンともうまくやってるし、と浦原隊長に感心したように呟いた。さっきの白とのやり取りのことを言っているのだろうけど、あれは完全に慣れであるし、白は意外と行動パターンがわかりやすいから、気を引きやすいというだけの話なのだ。むしろわたしは、四楓院隊長と親しくしている浦原隊長の方がよっぽどすごいと思う。浦原隊長に採取用の器具を渡しながら話をする。今日の目的はこの辺りに自生する植物と、先日現れた虚について、と聞いているけれど、難しいことはわたしにはわからない。採取も全て浦原隊長に任せきりだ。熱心に採取している浦原隊長を眺めるだけで手持無沙汰になってしまい、九番隊の演習の様子を窺うと、虚こそ出ていないものの六車隊長にしごかれた隊士たちが次々とうずくまっていく。ひえ。わたしにはこういうの絶対無理だ。九番隊じゃなくてよかった、とこっそり安心していると、突然浦原隊長に腕を引かれて引き寄せられる。え、と声を出す間もなくそれまでわたしがいた場所に白に蹴り飛ばされたらしい隊士が飛んできた。浦原隊長に引き寄せてもらわなかったら、きっと直撃していただろう。頭ではわかっているのに、一気に近くなった距離に身体が固まってしまって、誤魔化すように飛んできた隊士に駆け寄った。

「大丈夫ですか」

九番隊の演習なのだから部外者のわたしが近づかない方がいいとはわかっているけど、結構な勢いで飛んできたし、怪我をしているかもしれない。まだ霊術院を出たばかりの若い男性隊士は、うめき声を上げて蹴られたお腹を押さえていた。ひとつため息を吐いて、回道をかける。ひとりに使ったら他の人たちも手当てをしなければならないため、出来れば手を出したくなかったのだけど、四番隊時代の名残だろうか、目の前に怪我人がいると放っておくことができないのだ。ある程度治したところで、男性は起き上がってわたしの両手を握りしめた。………ん?

「ありがとうございます!とても楽になりました!」

わたしの手を握ったまま感謝を伝えてくる彼に、いやそんな…とさりげなく手を離そうとするが、ガッチリ握られていて離れない。元気になったならまた六車隊長と白にシゴいてもらいにいった方がいいのではないだろうか。何やら一生懸命話している彼の声は右から左へと抜けていき、全く頭に入って来ない。とりあえず手を離してほしい。無理やり振りほどいてしまっていいものか。困り果てていると、浦原隊長が男性の腕を掴んで、わたしから引きはがした。

「女性に無理強いするのはよくないっスよ」

いつもの柔らかい物腰だけど、なんとなく冷たく感じる声に、わたしの手がようやく解放される。そして男性は浦原隊長に促されるまま、演習に戻っていった。

「あ、ありがとうございます、浦原隊長」

「なまえサンはガードがゆるいっスからねェ」

へらり、と笑っているものの、僅かにトゲを感じる。わたしはガードがゆるいつもりは、ないのだけれど。普段から男性とはそれなりに距離をとっているし、今回のは不慮の事故のようなものだ。死神は女性が少ないため、よっぽどでない限り男性にアプローチされやすい傾向にあるのだが、そこはしっかり分別して距離をとっている。確かに先程のことはわたしの落ち度だけど、浦原隊長に冷たく当たられる覚えはない。

「ダメじゃないっスか、簡単に男に手を握られちゃ」

思わず閉口してしまう。だって、あなたが、それを言うの。物を食べさせたり、何かとスキンシップが多くて、先日、わたしが震えていたからとはいえ手を繋いで。そうやって勘違いさせるようなことをするのは浦原隊長なのに。まさか、わたしが誰に対してもそれを甘んじて受け入れているとでも思っているのだろうか。カチン、とくるが、すべてを飲み込むしかない。だって、何を言えばいいの。ちがいます、誤解ですって、そんなことを言ったらもう告白しているようなものだ。グッ、と目頭が熱くなるのを押さえて、浦原隊長を睨みつける。

「浦原隊長の、馬鹿」

わたし、九番隊のお手伝いしてきます。言い逃げするようにすたこらと、身体を動かしているせいか、ご機嫌な様子の白に近づく。馬鹿って、なんだ馬鹿って。子供か。鈍感とか、ひどいとか、好き、とか、色んな気持ちがないまぜになって出てきた言葉だったとはいえ、もっとマシなのはなかったのだろうか。困ってるところ助けてもらっておいて気に入らないこと言われたら怒って睨みつけるなんて、そろそろ愛想をつかされるかもしれない。はぁ〜と大きなため息を吐くと、白になまえちんも混ざる?と聞かれて即答で拒否をした。しかし手が空いてるなら手伝え、と六車隊長に言われて、やはり地面に倒れている隊士たちの治療をさせられることになったのだった。本当にみんな、人遣いが荒い。浦原隊長は、わたしを追いかけることはなく、ひとりで黙々と採取を続行していた。こんなんじゃ、せっかくのひよ里の気づかいが無駄になってしまう。だけど、もやもやしたままの今、浦原隊長と話をすることは、わたしには難しかった。


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